「未来への想いを胸に」(君が望む永遠)(涼宮遙、速瀬水月、涼宮茜)

「おめでとう!」
 声高らかに飲み物の入ったグラスを掲げる水月
 は、恥ずかしいよぉ〜。
 でも、せっかく水月がお祝いしてくれるんだから。
 周りの人の視線が気になってたけど、それ以上に水月の気持ちが
嬉しかったから。
「ありがとう、水月
 私もグラスを掲げて、水月のグラスにコツンと挨拶をした。


 ここは、柊町のどこかにある喫茶店
 今日は3月22日。
 白陵柊に通うようになってから、2回目の私の誕生日だった。
「しかし遙も17歳か〜、早いもんだね」
 お誕生日用のケーキを切り分けながら水月が言う。
「……な、何が早いのかよくわからないんだけど……」
 私は水月が取ってくれたケーキを受け取る。
 水月は私の問いかけには答えずに、自分用に少し大きめに切り取った
ケーキを頬張った。
「うん♪ このケーキおいしい〜。遙も早く食べてみなよ」
 水月が本当においしそうに言うので、私も食べてみることにした。
 フォークで一口サイズに切り取って、口の中へ入れる。
 あ、ほんとにおいしい。
「でしょ? この店にしてよかったねぇ」
 今日は私の誕生日ということで、お祝いをしてくれるという水月に連れられて、
この喫茶店にやってきた。
 喫茶店なんだけどケーキの味は絶品、という水月の話だったので来てみた
わけなんだけど、正解だったかな。
 でも、よかったと言いつつも、水月は何か落ち着かない様子。???
「どうか、したの?」
「え、何が?」
 水月は何のこと?って目で私を見つめる。
「何か気にしてるみたいだから……」
 水月は少し微妙な表情を浮かべている。
「あ〜、まあ、なんてゆーか、遙をびっくりさせようと思ってたからさ〜。うまくいって
よかったかなって」
「それは、確かにびっくりしたけど」
 何か水月は隠してるような、そんな感じだったけど、私は気にしないことにした。
 だって、水月がお祝いしてくれてるのは事実なんだから。


 カランコロン♪
 おいしいケーキに舌鼓を打っていると、カウベルの音とともにドアが開いた。
 中に入ってきたのは私も水月もよく知っている子だった。
 その子に気づいた水月は、先生にイタズラが見つかった小学生のような
表情を浮かべた。
「えへへ。こんにちは、水月先輩♪」
 その子は嬉しそうに言うと、私の隣に腰掛けた。
「あ、茜よくわかったわね……」
 水月はすごくがっかりしている。
「それはわかりますよ〜。大好きな水月先輩のいるところなら、たとえ火の中
水の中。それに、今日はお姉ちゃんの誕生日なんだもん。水月先輩が行き
そうなところは絞りやすかったです」
 にこにこしながら茜が答えた。
 この子は涼宮茜。私、涼宮遙の3つ違いの妹だ。
「でも、どうして水月は残念そうな顔してるの? 茜にみつかったらまずいことでも
あったの?」
 水月はしばらくうなだれていたが、アイスティーをごくごくと一気飲みすると
ようやく落ち着いたのか、話してくれた。
 曰く、茜とのちょっとした賭けに負けてしまったために、今度会った時に何でも
好きな物をおごらされる、ということだったみたい。
「よりによって今日なんだ……。遙のためにいつもよりちょっとクオリティの高い
お店にしたのがマズかったかなあ」
 え、どういうこと?
「おいし〜い♪ ほんとにここのケーキおいしいですね、水月先輩♪」
 いつのまにか、茜はケーキを注文していて、それを食べていた。
「だってさ、このお店のケーキは有名なパティシエールが作るほんとにおいしい
ケーキなの。そして、そのおいしさはどこに影響してくるかと言うと」
 ようやく、水月の言おうとしていることがわかってきた。
「お金、だね」
 水月は元気なく首を縦に振る。
「そ、そのとおり。確かに値段に見合った味なんだけど。3人分となると……
けっこうキツイかも」
 そ、そうなんだ……。
「すいませ〜ん。追加いいですか〜」
 茜は容赦なく追加注文をする。
「あああ……」
 そしてどんどん力がなくなっていく水月
「あ、あの、私、自分の分は自分で払うから……」
 思わずそう言ったことが、逆に水月に火をつけたようだった。
「それはダメ! 今日は遙のお誕生日なのよ? 遙には喜んでもらいたいもん。
それに、茜とのことも約束だから文句は言えない。きっぱりあきらめるわ」
 水月はさっぱりした顔でそう言うと、ケーキをパクパク食べ始めた。
 水月のこういうところはほんとにすごいなって思う。


 おいしいケーキをいっぱい食べた後の帰り道。
 夕日が茜色に染まっていて、すごくきれいだ。
「でもさ、来年はこんなふうに過ごせないかもしれないから、これはこれで楽しい
思い出だよね」
 サイフにかなりのダメージを受けた水月がそんなことを言った。
「どういうこと?」
 問い返す私。
「だって、来年は遙に彼氏が出来てるかもしれないじゃない?」
 ええっ?
「え〜、お姉ちゃんに彼氏〜? なんか、全然想像できないんだけど」
 ううっ、すごく失礼なことを言われてる気がする。
「そんなことないわよ、茜。遙だって普通の女の子なんだから。それに、こないだ
聞いたところによると、好きな男が……」
 ちょ、ちょっと水月
「おっとこれは内緒だった。じゃあ私はこっちだから。また明日ね遙! 茜も
今度会ったときには賭けのリベンジするからね〜」
 水月は言いたいことだけ言うと、さっさと走っていってしまった。
 茜が私の顔を覗き込んで言う。
「好きな人……いるんだ?」
「い、いませんっ」
 思わずそう言ったけど、茜はにやにや笑いをやめない。
「別に隠すことないと思うけどね〜」
「か、隠してなんかないですっ」
 やたら過剰に反応する私がおもしろいのか、茜はにこにこしながら歩いて
いった。


 彼氏、かあ。
 ふと想像してしまうのは、あの人のこと。
 まだお話もしたことがないけど、来年は同じクラスになれたらいいな。
 そんなことを考えながら、随分先まで歩いていってしまった茜の後を追いかけた。


 もう少しすれば桜の花が咲き、新しい季節がはじまる。
 出会いと別れ。春はうれしいことと悲しいことが半分ずつやってくる季節。


 来年は、いいことあるといいな。


 未来への想いを胸に、私は明日への一歩を踏み出した。


おわり


あとがき


PCゲーム「君が望む永遠」のSSです。
ヒロインの涼宮遙の聖誕祭用です。
今年は書く予定してなかったんですが、なんとなく書いてしまいました。
未来の話はもう書かないと決めていたので、過去の話になりましたが、
なんだか微妙な感じです……。
やはり、ちゃんとプロット立てないとダメだなあ。


それでは、また次の作品で。


2005年3月22日 涼宮遙さんお誕生日♪