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「おっはよー、ひなちゃん!」 「おはよう、お姉ちゃん、って、えええ?」 「どうかな、ひなちゃん」 「そのカッコ、お内裏様?」 「そだよー。で、ひなちゃんにはこっち♪」 「えっと、お雛様、だよね、これ」 「さあ、早く着替えて、ひなまつりしよう!」 …
「達哉、ひとつお願いがあるのですが」 俺の隣を歩いている白い物体が話しかけてきた。 「なんですか、雪だるまさん」 ピコン☆ 「誰が雪だるまさんですか」 「だって、そんなに着込んでいるから、遠目から見たら雪だるまにしか見えませんって」 俺の隣を歩い…
「こーへーは、ゼンマイ好き?」 いつものお茶会ではなく、今日はお鍋会にしようという悠木かなでの横暴……ではなく 要望により、お鍋会となった支倉孝平の部屋。 かなでは鍋の様子を見ながら、唐突に孝平に問いかけた。 「ゼンマイですか? ええ、好きですよ…
春休みも間近に迫った、三月のある日。 半日授業を終えた俺は、いったん家に帰って着替えるとすぐに家を出た。 「あら、雄くん。こんにちは♪」 いつもにこにこ麻美さんが俺を出迎えてくれた。そう、俺の目的地は舞阪家、正確に言 うなら美咲の部屋である。 …
漂っているのは夢の中。 東儀白は自分が夢を見ていると自覚しながら、まだ起きませんようにと願っていたが、 その思いに反するようにやがて周囲が白くなっていった。 目を開けた白は、小さく溜息をついた。 しょんぼりしながら枕元に置いておいた携帯電話を…
二月の半ばの、とある日曜日。 今日は臨時の仕事が入ったので、休みであるのにも関わらず、生徒会の面々は学院まで 出てきて、それぞれ仕事を進めている。 「あ〜、せっかくの日曜なのに、俺たちまで出勤とはね〜」 「仕方あるまい。今日は支倉が用事で不在…
眠れない夜を過ごして、二月一日になった。 ようやく峠は越えたのだろう、さきほどから聞こえている寝息もずいぶんおだやかだ。 達哉はなるべく音を立てないように扉を閉めると、安堵の溜息をそっとついた。 「お疲れ様、達哉くん」 リビングに入ると、さや…
ここは日の丸町天神通り商店街。 年の瀬を迎える準備で大忙しの中、一番大変なのはやはりこちらなのかもしれません。 「おうおう、手の動きが止まってんぞ。スムーズかつリズミカルにデコレーションしねえ と、ケーキの味が落ちちまうだろうが!」 「わかっ…
紅瀬さんをはじめて見たのがいつなのかは覚えていないが、その時の衝撃は今でも覚え ている。 電流がびりっと流れた、なんて陳腐な表現は使いたくないけど、実際にそんなことがあ るものなのだと妙に感心したものだ。 それ以来、いつか彼女をモデルに絵を描…
「こーへー、おなべの季節です!」 唐突にやってきたその人は、食堂で昼食(やきそば定食支倉仕様)を食べようとしてい た孝平の前に立つと、そう言い放った。 「えと……」 「おおっと、皆まで言わなくてもいいよ。こーへーの言いたいことはわかってるから」 …
十月になっての最初の日曜日。 出かける予定だったので天気を心配していたが、そんな心配は杞憂だったようで、窓の 外には雲のない青空が広がっていた。 「それじゃ、早速でかけるか」 孝平は秋用のジャケットを羽織ると、ドアを開けた。 「あ、おはよう。孝…
全力を使い果たした練習試合が終わり、昨日は家に帰ってきて部屋に入った途端、猛烈な 睡魔に屈服した。夜中に暑さで目が覚めて、シャワーを浴びて身体を冷やしてからエアコン のタイマーをセットして再び眠りについた。 これでゆっくり眠れる。 と思ってい…
空は高く、青く澄み渡っていた。 「絶好の試合日和だね〜♪」 ほにゃりと美咲が呟く。 「ああ、いい天気だ」 バスケットの試合は屋内なので、天候はそんなに関係ないのだが、やっぱり気分の問題 である。 「もう少し寝ててもよかったんだよ?」 隣で美咲が言…
ガサゴソという音が、わずかに聞こえている。耳に届くか届かないかというかすかな音 なので、気にしなければいいだけの話なのだが、一度気になってしまうともうダメだった。 ゆっくりとまぶたを開くと、部屋の明るさから七時過ぎぐらいだと思った。 普段より…
「ようし、これが最後の練習だ。各自シューティング50本。ショート、ミドル、ロング レンジの3種類だ。やりたいやつは、超ロングレンジも10本だけ許可する。はじめ!」 俺たちはひたすらシュートを打ち続ける。入ろうが入るまいが、関係なく50本。適…
試合の日も近づき、練習にも熱が入ってきた。基本練習は二割増だが、練習時間は変わ らない。つまり、漫然とやっていると試合に向けた練習が出来なくなってしまうので、自 然に俺たちの集中は高まるという寸法だ。 だって、基本練習なんだぜ? 今までいやに…
秋の気配が漂って来ようが、八月は八月以外の何ものでもなく、夏休みは残り少なくなっ ても夏休み以外の何ものでもない。 つまり、夏休みなのだから夏休みの宿題をするのは当然なわけで。 俺、笹塚雄一は今日も夏休みの宿題を片付けているのだった。 「しか…
朝と昼間の蝉の声にもようやく慣れてきたのだが、夕方から夜にかけて、少しずつ虫の 声が聞こえてくるようになった。 「もうすぐ秋なんだよね〜。だいぶ涼しくなってきたし」 「そう……だな……」 ゼハーゼハーと、息を荒げながらも答える俺。 「どうしたの雄一…
夏休み直前の、とある日の昼下がり。食後間もない授業は睡眠の温床であり、司はすで に熟睡している。 孝平もがんばってはいたものの、期末試験も終わった安心感と、食後の満腹感が手伝っ て、次第に頭を揺らし始めた。 「支倉君」 小さいが、針の穴を通すよ…
この夏の風物詩と言ってもいいだろう、朝からの蝉時雨も少し小さくなってきたような 気がする。 「もうそろそろ夏も終わりなのかなあ」 縁側で美咲がアイスキャンデーを舐めながらそんなことを呟いた。 「何言ってんだよ、美咲らしくない。夏はそんなに簡単…
「雄一〜、起きてる〜?」 「んあ、なんだ美咲か? 今何時だよ……」 「5時5分」 「早いよっ!」 思わず目が覚めた。 「し〜っ。静かにしないと近所迷惑でしょ」 俺の家はお前にとって近所じゃないのでしょうか。 「雄一は家族も同然だもん♪」 ファーストフ…
「おはよう、美咲」 「おっはよう、雄一☆ 今日も早いね♪」 「お、おう」 雄一はなぜか複雑な表情を浮かべていました。 「どうかした?」 「いや、早いって言われると、オトコとして微妙な気持ちになってな……」 ?? 「なんでなんで? 早起きはいいことだと思…
八月も半ばを過ぎて、ようやく暑くなってきた気がする。 「夏だもんな。これぐらいの暑さなら平気だ」 俺は、さっさと支度すると、美咲の家に行った。 「あれ、雄一? 今日は早いね」 「明日からは、今日も早いね、だな」 「うわ、自信たっぷり。ふふ、楽し…
朝からセミが鳴いているのにもずいぶんと飽きてきたが、そんな人様の都合はセミには まったく関係がなく、つまりは今日も元気よくセミは鳴いていた。 「あいつら、少しぐらい静かにしてくれないかなあ」 「そしたら宿題が捗るのに?」 「雄一の宿題が捗らな…
ゆらゆらと視界が揺れている。夏にありがちな光景だ。あまりの暑さに、地中の水分が 蒸発して水蒸気になっているのだろう。 「俺の水分も、蒸発しているんだろうなあ……」 ぶっ倒れたまま、虚ろな目で呟く。 「雄一、そんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ…
波乱万丈だった一週間もあっという間に過ぎて、通常の日常が戻ってきた。とは言って も、夏休みはまだまだ後半戦が始まったばかりで、暑い夏はいつ終わるのか予想すら出来 ないのだけど。 「おっはよう、雄一! さあ、今日も部活がんばろうね♪」 「おう、も…
いよいよ次で最後ですね。 二日間に渡って行われたこのお祭りも、ようやく終焉を迎える。 懺悔に来られる人というのは、普段はそれほど多くはないのに、どうしてここにはこん なにもたくさんの方がいらっしゃるのでしょう。 まったく地球の方は……と最初は思…
「っくしゅん!」 可愛らしいくしゃみをしたのはグッさんだった。 「ほい、タオル」 「あ、ありがとう雄一君」 「あったかいお茶もあるよ、香奈ちゃん♪」 「美咲ちゃん、ずいぶん用意がいいね。夏だから冷たいお茶だとばっかり思ってたよ」 「えっへへ。実は…
旅館『高月』の裏山は、ハイキングにもってこいだと言うのは明子ちゃんの言葉だった。 「私たちにとっては朝ごはん前の散歩コースなんだけど、みんなにとってはどうかな」 「ふっふっふ。それはわたしたちへの挑戦ってことでいいんだよね、アキちゃん?」 美…
午前中は勉強タイムということで、夏休みの宿題を進めた。旅行だからと言っても、遊 んでばかりいられないのだ。 「しっかし、夏休みってのは休むためにあるはずなのに、どうして宿題はあるんだろう」 「それは、毎週休みの日曜日にも宿題があるのと同じなん…