(ぷちSS)「4日目 学生の本分」(舞阪 美咲)

 昨日はあんなにもしっかり曇っていたのに、今日は太陽のターンとでも言いたいのか、
朝から元気に太陽は陽射しを降りそそいでいた。
「おっはよ、雄一。今日もがんばろうね♪」
 そして、美咲も変わらず元気だった。まあ、美咲から元気を取り除いたら何も残らな
いわけで、当然ではあるんだけど。
「あー、そんなこと言っていいのかな。後で困っても助けてあげないよ?」
 はいはい、と受け流しつつ学校に向かって歩く俺は、後にこの言葉を後悔することを、
今は知る由もなかったのだ。
 ……まさか、こんな言い回しを使う日が来ようとはな。


 午前中は短時間だが密度の濃いバスケ練習。にぎやかな昼休みを挟んで、昼は勉強の
時間だった。
 学生たるもの、夏休みには『夏休みの宿題』というものが存在する。
 夏の午後などは一番暑い時間帯であり、部活の能率も上がらない。それならばいっそ
のこと、勉強の時間に当てようとみんなで決めたのだ。
 もちろん強制ではないので、それぞれ昼寝したり、遊んだり、奇特なことに個人練習
したりと自由に時間を使っているヤツもいる。
 俺は、美咲を含めた何人かと、図書館にやってきていた。涼しい環境で勉強できるな
ら、それに越したことはないしな。
 それに、ここの図書館は談話スペースもあるので、少々は喋りながら勉強していても
問題ない。
「おう、雄一〜。こっちだこっち」
 誰かが呼ぶ声が聞こえたのでそちらに顔を向けると、弘明がさわやかな笑顔で手を振っ
ていた。
「弘明も来てたのか。夏休みの宿題か?」
「ああ。家でひとり寂しくやってるよりはよっぽど捗るからな」
 こいつはきっとひとりでも、俺より勉強捗るぐらいには優秀だけどな。


 野洲弘明(やす ひろあき)。クラスメイトだ。一年の時に同じクラスになったこと
が縁で、何かとつるむようになった。
「弘明くんは、今日はひとりなの?」
 美咲が問うと、
「ああ。グッさんは今日は用事があるって言ってた。お前たちが来てよかったぜ」
 俺としてもひとりで宿題やるよりは、みんなでワイワイやったほうが断然いい。たと
え、勉強の効率が悪くたって、そんなことはどうでもいいことだ。
「そんじゃま、早速始めようか」
「うん♪」
「おう」
 それぞれジャンルは違うが、宿題を進めていく。こういうのは同じ教科をやってはダ
メであり、別々にやることに意味も意義もあるのだ。


「……むう」
 この問題、どうやって解くんだ? 夏休みの宿題なんて簡単だろうと高をくくってい
たが、なかなかどうしてムズカシイじゃないか。
「美咲、ちょっといいかな」
「ん、なあに?」
「この問題なんだが……」
 と、俺は隣に座っている美咲にムズカシイ問題のページを指し示す。
「……これが、どうかしたの?」
 ……あれ?
「教えて欲しいなー、と」
 美咲の表情を伺うように、俺は慎重に答えた。
「……後で困っても助けてあげないって言ったよね♪」
 満面に笑みを浮かべて、美咲は言った。
 ……しまった。顔は笑っているが、これは怒っている、間違いなく。
「そこを何とか」
 ここはくやしいが、下手に出るしかない。
「わたしから元気を取り除いたら何が残るのかな?」
 ……ぐっ。
「や、やさしい美咲さん、です」
「他には?」
「……か、可愛い美咲さんです」
「他には、他には?」
「ス、スタイルのいい美咲さんですっ」
「続けて続けて」
「や、やさしくて、可愛くて、スタイルのいい美咲さんです! そんな美咲さんに元気が
加われば、もう鬼に金棒ですよ!!」
 俺は夢中で美咲を褒めちぎった。
「もう〜、そこまで言われちゃしょうがないかな。よし、許してあげちゃおう」
 よしっ、やったぞ、俺……。
「それじゃ、この問題の答えを」
「うん、いいよ。ねえねえ、弘明くん。この問題を雄一に教えてあげて♪」
「おう。えーと、これはだな……」
 弘明はさらさらとノートに答えを書いていった。
「ふむふむ。雄一、これでいいかな?」
「……それ、ズルくないか」
「何言ってるの。美咲ちゃんのおかげじゃない☆」
 えへんと胸を張ってウインクをする美咲。……ちくしょう、可愛いな。
 これからは、学生の本分でもある勉強をおろそかにしないようにしようと、心に誓う俺
なのだった。