(ぷちSS)「新たなるシリーズ?」(FORTUNE ARTERIAL)

 五月のカレンダーも残り少なくなってきている。空模様は間近に迫っている梅雨を予感
させるような曇り空だった。
 だが、それはあくまでも空のこと。ここ、修智館学院の白鳳寮では、普段と変わらずに
いつものようにお茶会が開かれていた。
「いやっほー♪ もうすぐ六月だねえ」
 のっけからテンションが高いのは、やはりかなでだ。
「そうですねえ。……お、このお茶美味しいね、白ちゃん」
「ありがとうございます。実は、シスターに珍しいお茶をいただいたので」
「なるほど、道理で。……えっと、かなでさん。俺の部屋の隅でいじけないでください」
 かなでは孝平の部屋の隅で、のの字をたくさんのフォントを使い分けながら大量に書き
なぐっていた。
「だ、だってこーへーがおねえちゃんをいじめるんだもん」
「もう、しょうがないなあ、お姉ちゃんは」
 陽菜が苦笑しながらかなでのところへ行き、一言二言話しかけると、かなでは陽菜に抱
きついた。
「さすが陽菜ね。もう悠木先輩の機嫌が直ったわよ」
 瑛里華が感心した。


「ごめんね、孝平くん。後でお部屋はお姉ちゃんと掃除するから、今だけ勘弁してね?」
 戻ってきた陽菜が孝平に頭を下げる。
「いや、陽菜のせいじゃないさ。俺もちょっと大人気なかったかも」
「そうそう、わたしもおとなげなかったと思ってるんだよ、こーへー」
 かなでが平たい胸をえへんと張っている。
「だからね、わたしたちでこーへーの部屋をお掃除しようと思うの♪」
「……ええと、気持ちは嬉しいんですが、そのラクガキだけで十分ですよ?」
 かなでは、ちっちっちと指を振った。
「あのね、これは別にいやがらせじゃあないんだよ?」
 にっこりと微笑むかなで。
「もうすぐ六月でしょう? 新入生のみんなも、五月病が治る頃で、寮生活にも慣れて来
た頃だと思う。慣れるってのはいいことだけど、それだけじゃないんだよ」
「はい。かなで先輩、お茶です」
 白が差し出したゆのみを、かなでが一気に飲み干した。
「ありがと、しろちゃん♪ それでね、そろそろ寮生活において問題になってくる時期な
んだ」
「何が問題になるんですか。悠木先輩」
 問題と聞いては聞き捨てならないのだろう、瑛里華が尋ねた。
「ちょっとずつ、ちょっとずつだけど、お部屋が汚れてくると思うんだよね〜」
「部屋、ですか?」
「そうだよ、えりりん。女の子はキレイにしている子が多いけど、男の子はちょっとね〜。
こーへーの部屋も、転入したての頃よりは、ちょっと散らかってきたでしょ」
 確かに、言われてみると多少は散らかっていると思った。お茶会のメイン会場なので、
なるべくきれいにしているつもりの孝平だったが、逆に言えばお茶会で使わない場所なん
かは掃除がおろそかになっていた。


「だからね、毎年この時期になると、美化委員会の強化月間なの」
「風紀委員会も協力してるんだよ」
 悠木姉妹が声をそろえる。
「ふむ……、これは生徒会も協力したほうがいいかしらね……。白は、どう思う?」
「そうですね……生徒の自主性に任せるのが一番だと思いますが、その自主性を促すお手
伝いが出来たらいいと思います」
 派手な生徒会長や突撃副会長など目立つ人材が多い生徒会で、白は目立たない位置にい
ると思われがちだが、自分の意見をしっかりと持っているのだった。
「えらいね、白ちゃん。その通りだよ」
「うんうん、お姉ちゃんはうれしいなあ」
 にこにこと微笑む悠木姉妹。
「オッケー。それじゃあ、これは私たちだけじゃなくて、学院の行事扱いで進めましょう。
そうすれば、学院から助成金も出るし、いろいろやりやすくなるわ」
 きらきらと目を輝かせながら瑛里華が言う。やはり、突撃副会長の名前は伊達じゃない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだかよくわからないんだけど、どういうことなんだ?」
 ひとり、おいてけぼり状態の孝平が瑛里華に尋ねた。


「そうね……わかりやすくいえば、『お掃除洗隊ふぉーちゅんファイブ』ってところね!」
「それいいよ、えりりん! うわー、なんだかおもしろくなってきたー。ね、ひなちゃん」
「そうだね。がんばろうね、白ちゃん」
「はい、よろしくお願いします。陽菜先輩」
 やはり孝平はおいてけぼりで、女の子たちは盛り上がっていった。



 つづく