(ぷちSS)「四大元素」(FORTUNE ARTERIAL)(悠木 かなで)

「こーへーは、四大元素って知ってる?」
「よんだいげんそ?」
 7月も終わりに近づき、誰もが夏の到来に気づいているのに、なぜか熱々の鍋を
食べながら、孝平はかなでの問いに答えようと頭を回転させる。
 ぐーるぐーる…………、ぱくり。
 考えても何も浮かばないので、孝平は白菜を食べた。
 まさに取れたて、と言わんばかりの歯ごたえ。
 今が7月であることを差し引いても、それは十分に美味しいと思える。
「そ、四大元素
 孝平の取り皿が空になったので、かなでは鍋から肉と野菜を等分に、しかし
山のように盛り付ける。
「わ、かなでさん、自分で取るからいいって」
「いいからいいから、おねーちゃんに任せなさい!」
 ぺたんこの胸を叩いて、自慢げなかなで。
「いっぱい食べないと大きくなれないよ?」
 その一言を聞き、思わずかなでを見つめてしまう。
「も〜、こーへーったら、どこ見てるのー」
 ぺしぺしと孝平の肩を叩くかなで。
 決してかなでの胸を見ていたわけではない、が、ここで言い訳をすると、
きっとどこかから話を聞きつけたあいつが突っかかってくるだろう。
 そう思った孝平は、何も言わずに肉を口に運んだ。
「で」
「?」
「? じゃないよ。質問のこ・た・え・は?」
 えーっと、確か……。
四大元素だっけ?」
「そそ。四大元素
 孝平はしらたきを食べ終わってから答える。
「ふう・すい・か・ち」
「風水価値?」
「違います。風・水・火・地です」
「そのココロは!」
「……わかりません」
 なでなで。
 なぜか、かなでに頭をなでられた。
「こーへーは正直者だね。じゃあ、おねーちゃんが教えてあげよう」
 と言って、かなでは鍋から肉と野菜を等分に、しかし先ほどの2倍以上に
山のように孝平の取り皿に盛り付ける。
「今、こーへーが食べてるのは何かな」
「……お鍋、ですね」
 ちなみに、今日の鍋は水炊きだ。
「そう。四大元素は、空気・火・水・土のよっつの元素のこと」
 孝平は驚いていた。かなでさんが、まじめなことを言っている、と。
「さっき、こーへーが言った『風・水・火・地』も同じことだね。さて、
ここで質問。お鍋に必要なものは?」
「土鍋……水……火に……空気」
 なでなでなで。
 3回なでられた。
「そお。つまり、お鍋とは四大元素にのっとった、素晴らしい料理なのだー」
 ぱんぱかぱーん、と偶然にも寮の食堂にファンファーレが鳴り響いた。
 吹奏楽部が間違えたのだろうか。
「それが、かなでさんが鍋が好きな理由ってわけですか」
「ん〜ん、そうじゃないけど」
 ずるっ、と孝平は汁をすする。
「じゃあ、なんで」
 問いかける孝平に、満面に笑みを浮かべて、かなでは答えた。
「だって、食べてる人の笑顔が見られるから♪」
 さっきの四大元素のお話はなんだったんだ、と思ったが、かなでの笑顔を
見ていたら、そんなことは些細なことだと感じた。
「ごめんね、お姉ちゃん、孝平くん。ちょっと遅くなっちゃった」
 そこへ、陽菜がやってきた。美化委員会の仕事で、少し残業していたらしい。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。まだまだお鍋はいっぱいあるからね♪」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
 またひとつ、食卓に笑顔が増えた。
 なるほど。
 夏に鍋も悪くない。そう思う孝平だった。