(ぷちSS)「エステルのプレゼント」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)
この間は左門での夕食だったので、今日は朝霧家での食事となった。
「こんばんは、達哉。今日はお招きいただきありがとうございます」
水曜日は左門の定休日ということもあるが、それとは関係なく、
エステルさんを夕食に招待したかったのだ。
「お久しぶりです、麻衣さん。はい、ありがとうございます」
さすがに二度目ということもあり、エステルさんもみんなと打ち解けて
いるようだ。
「ミアさんは、月の料理も地球の料理もお上手なのですね」
今や、すっかり朝霧家の台所をまかされているミアの料理には、エステル
さんも満足らしい。聖職者なのだから、普段は質素な食事を心がけているの
だろう。
左門ほど豪勢な料理ではないが、あたたかい食卓をみんなで過ごして、
リビングでゆったりと過ごしていた時のこと。
「ふあ〜ぁ」
「あら、どうしたのですか達哉。まだ眠くなるには早い時間ですが」
俺のあくびを見たエステルさんがお茶を飲みながら言った。
「ああ、達哉はゆうべはかなりはしゃいでいたようだから、そのせいでは
ないかしら」
フィーナが優雅に微笑みながらエステルさんの問いに答える。
「お兄ちゃん、エステルさんが来るからって、家中の掃除をはじめちゃったん
ですよ〜♪」
こら、麻衣、余計なことを言わなくていいから。
「私も精一杯、達哉さんのお手伝いをさせていただきました」
ミアまで……。
「達哉くんたら、普段は机の上から二番目の引き出しの裏に隠してあるものを、
三番目の引き出しの裏の隠しスペースに変えてたりするのよ♪」
ちょ、姉さん……なんでそんなこと知ってるんだよ!
「そ、そうなのですか……。まったく、仕方のない人ですね」
エステルさんは少し顔を赤くして呟いた。
「そ、そんな仕方のない達哉には、これを差し上げます」
エステルさんは、かばんの中からきれいにラッピングされた包みを
取り出すと、俺に差し出した。
これって、もしかして。
「わあ、チョコだ〜♪」
麻衣の歓声が聞こえた。
「地球には、バレンタインデーというものがあると、鷹見沢さんから聞きました。
べ、別に達哉が大切な人というわけではありませんので、これは紛れもなく
義理チョコですが、それでも日ごろお世話になっているので、そのお礼も
兼ねて。なので、……ど、どうぞ」
エステルさんは、ほっぺに手を当てながら早口にそう言った。
…………あ、それって、もしかして。
俺はエステルさんの気持ちに気がついてしまった。
「ありがとう、エステルさん。俺、すごく嬉しいです」
「うわあ」
麻衣がごちそうさま、という顔をしてのけぞった。
「もしかして、エステルさんの手作りですか?」
「はい。そうしないと気持ちがこもらないと教わりましたので」
麻衣の質問によって、このチョコにはエステルさんの気持ちがこもっている
ことがわかってしまった!
「まあ、達哉は幸せね」
フィーナがおもしろそうに微笑む。
「おめでとうございます〜」
ミアが拍手する。
「まあまあ♪」
姉さんが頭を撫でてくる。
「お兄ちゃんをよろしくお願いしますね」
麻衣の言葉に、エステルさんは顔を真っ赤にした。
「もう、あなた方はどうして私を恥ずかしがらせるようなことばかり……」
「それは、エステルさんのことが、好きだからですよ」
俺がそう言うと。
「知りませんっ」
エステルさんのチョップが俺の頭に炸裂した。
それを見たみんなは、またまた嬉しそうに微笑むのだった。