「豆まきなんて大嫌い!」

 今年も2月3日がやってきた。
 今日が何の日かは、ちっちゃい子からお年寄りまで、みんな知ってる。
 そう。節分だ。
 季節の分かれ目、という意味があり、立春立夏立秋立冬の前日のことを示すらし
い。
 だから、1年に4回は節分がやってくるのだが、なぜか2月3日だけが有名になってい
る。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 と言うより、1年に4回もやってこられたら大変なのだ。
 だから、1年に1度の2月3日。
 この日だけを切り抜けることができれば、何の問題も無い。
 無事、切り抜けられればの話だけど。


 時計の針が5時を指した。チャイムが鳴り響く。今日の仕事は終了だ。
 今、うちの会社はちょっとだけ暇になっている。従って、残業をすることはできない。
 普段は残業なんてやりたくはないのに、今日に限っては別だ。
 残業という理由があれば納得してくれるのだろうが、なかなか世の中はうまくいかない
ものらしい。
 無駄に会社で時間をつぶすことすらできないので、あきらめて帰り支度をする。
「よう、福野。今日はこれからどうするんだ?」
 同僚の桜餅が話し掛けてきた。
 もちろんあだ名だ。いつも血色の良い桜色の頬と、もちもちとした身体。
 なにぶんストレートなあだ名だが、命名したのはヤツの彼女なので桜餅も文句が言えな
いらしい。
「どうって……家に帰るんだが」
「なんだ。何か用事でもあるのか」
「あると言えばあるし、無いと言えば無い」
「なんだかよくわからんが……。まあいい。ちまきがこれから飲みに行こうって言うんだ。
お前も来いよ」
 ちまきというのは桜餅の彼女のことだ。ちなみに本名だ。ふたりが結婚して子供が生ま
れたら、男だったら大福、女の子だったら苺大福という名前にするのかと、酒の席で言っ
た事がある。
 もちろん、そのときはちまきにしこたま殴られたけど。
 ……酒を飲むのは控えようと思った。
「悪いけど、今日は帰ることにするよ」
「そうか。じゃあまた今度な」
 ヤツは残念そうな素振りも見せず、さっさと行ってしまった。
「……帰るか」
 ボソリと呟くと、僕はカバンを持って会社を出た。

 電車を乗り継いで自宅に最寄の駅に着く。
 その瞬間、空気が張り詰めた!
 嫌が応にも緊張が高まる。
 僕は注意深くあたりをきょろきょろと見回しながら、改札を抜け、駅を出る。
 まわりに人影は、ない。
 緊張感を纏ったまま、家へ向かって歩き始める。
 コツコツと僕の靴の音だけが響く。しばらく歩いていたが何のアクションもない。
 ちょうど駅と家の中間まで来た頃、街灯の下に1匹のネコがうずくまっていた。
 黒と白が仲良く混ざり合った灰色のネコ。うちのネコ、カーラだ。
「何やってんだ、こんなところで」
 そう言って、カバンを置いてカーラを抱きあげる。カーラがにゃおんと鳴き声をあげた
その時、
「もらった!」
 と言う声が聞こえると同時に、無数の何かが僕(とカーラ)に向かって撃ちこまれた!
 とっさにカーラを抱えたままその場から飛びのく。
 あの声は……一姫だ。
「いつきのバカ! 早いんだよ!!」
「うるさいわね! そんなこと言ってる間に攻撃しなさいよ、ニタロー!!」
 僕を間に挟んで、あっちとこっちで会話が繰り広げられる。
 一姫と二太郎の声の聞こえてきた方角から最も離れた方向へと僕は走り出す。
 その直後、ビシビシビシッッッと地面に何かが叩きつけられる音。間一髪。


 その後は2人の散発的な攻撃をなんとか潜りぬけ、なんとか家まで辿り着いた。
 玄関の扉を開けると、愛する妻の美沙希が出向かえてくれた。
「おかえり神弥。その様子からすると、今年は無事に逃げ切ったみたいね」
「かろうじて、だけどね」
 息をはずませながら答える。後ろを振り向くと、一姫と二太郎が残念そうにうつむいて
いる。
「じゃあ、あんたたち。これはあずからせてもらうわよ」
 そう言うと、美沙希はふところから一姫と二太郎のお年玉を取り出し、中身を半分ずつ
抜き取ると、ふたりに手渡した。
 くやしそうにお年玉を受け取る一姫と二太郎。
 我が家では、節分の日の鬼ごっこは恒例の行事になっている。
 子供たちが勝てば、お年玉は2倍。(ただし、その分は僕が出さなければならない)
 僕が勝てば、お年玉は半額。(半額は美沙希の元へ。貯金しているらしいが、真実は闇
の中)
「「お父さんのバカー!」」
 2人仲良く叫ぶと、一姫と二太郎は家に飛び込んでいった。
 なんで僕が悪者なんだ……。名前だけ見ればとってもえらいのに。
 福野神弥。ふくのかみなんだけどなあ……。
 そう言えば、桜餅のやつが言ってたな。ちまきの『き』は鬼の『き』だって。
 という事は美沙希の『き』は……。
「神弥〜。今夜はいっぱいサービスしてあげるからね〜」
 デカイ声でそう言うと、美沙希は家に入っていった。
 ……ご近所中にまる聞こえなんですけど。
 やれやれと思いながら、家に入ろうとして気がついた。
「カバン、忘れてきた」
 その頃。街灯の下に置き去りにされていたカバンは、豆まみれになっていた。
 トホホ……。


おわり。


あとがき


突発的に書きたい衝動が湧きあがったので、書いてしまいました(笑)。
思い着くままにつらつらと文章を書き連ねるのも楽しいですね。
それではまた。


2004年2月3日 たいしておいしくない豆だけど、気づけばたくさん食べている日


あとがきのついき


今回は、まずタイトルを考えてから、それから本文を書き始めました。
書き終わってから、妙にガキっぽいタイトルだなーと(汗)。
主人公は妻子ある男なのに……。
何も考えずに書くのも良し悪しですね。
執筆時間は1時間30分ほどだったので、いいペースで書けたんですけどね。
オチも5分ぐらい考えたものですし。
それではまた次の作品で。


2004年2月7日 少しくもってて寒い日