「がんばりますっ!!」(君が望む永遠)

「いらっしゃいませ〜」
 今日最初のお客様がいらっしゃったことを告げるベルの音が聞こえました。
 私はすかさずお客様の応対を致します。
「喫煙席と禁煙席、どちらになさいますか?」


 私は、玉野まゆ。この『すかいてんぷる』橘町店でアルバイトするようになって、そろ
そろ10ヶ月。
 少しは一人前に近づけたでしょうか。まだまだ熟練というレベルにはほど遠いですが、
一生懸命がんばっております。
「まゆまゆ〜。オーダーできたから3番テーブルまでお願い」
「御意っ!」
 大空寺あゆ先輩がオーダーがあがったことを教えてくれました。
 今回のお皿は2枚。これなら大丈夫です!
 私は両手にお皿を持って、3番テーブルへと向かいます。
「お待たせしました〜。……ご注文の品はお揃いですか?それではごゆっくりどうぞ!」
 私はお客様に深々と頭を下げて、フロントへと戻りました。
「おはようございます、玉野さん」
「あ、店長さん。おはようございます〜」
 店長の崎山健三さんがいらっしゃいました。私たちの間では”健さん”と呼ばれていま
す。
「今日はゴールデンウィークが終わってから最初の日曜日です。また忙しい日になると思
いますが、がんばってくださいね」
「はいっ!がんばりますっ!」
 そうです。休日の『すかいてんぷる』は、いつも人がたくさんいらっしゃいます。特に
ランチタイムなどはまさに戦場といっても過言ではないほど。モノノフの私としましては、
負けるわけにはまいりません。毎日が戦いの日々なのですっ!


「あ〜〜。やっと落ち着いてきたわねえ」
「そう、ですねえ〜〜」
 先輩が話し掛けてきました。壁にかけてある時計を見上げると、14時を少し過ぎたこ
ろ。ランチタイムも終わり、私たちもようやくひと息つける余裕が出てきました。
「この忙しい日に、あの糞虫はなんで休みを取ってやがるのかしらね?あんな給料泥棒が
休みなんて100万年早いのよ!」
「なんでも〜、彼女さんとデート、らしいですよ?」
 先輩のおっしゃってる糞虫とは、鳴海孝之さんのことです。先輩と孝之さんは、私が『す
かいてんぷる』で働き始めた頃からずーっとお世話になっている方々です。早く先輩たち
のお手をわずらわせないように一人前になりたいものです。
「あんですと〜!糞虫の分際で生意気ね。あんなやつは人の3倍働いてちょうどいいぐら
いなのよ」
「では、今度から鳴海君には赤いエプロンをつけて働いてもらうことにしましょうか」
 健さんがいつのまにかそばにいらっしゃってました。
「店長、あの男はそろそろクビにしたほうがこの店のためだと思うわ」
「ははは、まあいいではありませんか。鳴海君だってたまには休みも必要でしょう。彼は
ここのところ毎日シフトに入ってましたからねえ」
「あんなのは死ぬまでこき使ってやってもいいのよ」
「そうですね。あ、ランチタイムも終わって少し余裕も出てきたことでしょう。交代で休
憩を取ってもらってかまいませんよ。私は事務処理がありますので奥にいますので、何か
ありましたら声をかけてください」
 健さんはそう言って、店の奥に入っていかれました。
「どうする、まゆまゆ?」
「先輩がお先にどうぞ〜。後は私ひとりでも大丈夫ですから」
「そうね。まゆまゆもだいぶ使えるようになってきたからね。それじゃ後はよろしく〜」
「はいっ! おまかせくだされ〜」


 えへへ、先輩にちょっと褒められちゃいました。うれしいです〜。がんばっている成果、
でているのかもしれませんね〜。


ポロンポロン


「いらっしゃいませ〜。喫煙席と禁煙席……って孝之さんっ?」
「や、玉野さん。バイトご苦労様」
 お客様は孝之さんでした。どうして孝之さんがいらっしゃったのでしょう。今日はお休
みのはずでは……。
「今日はお客として来たんだ。ほら」
 そう言って孝之さんが指差したのは、彼女さんでした。
「お食事……ですよね?」
「うん。ランチタイムは混んでると思ったから、わざと時間ずらして来たんだ」
「それではこちらへどうぞ〜」
 私は孝之さんと彼女さんをテーブルへと案内しました。
「ご注文はお決まりですか?」
「うん。『すかてんS』をふたつ。……それでいいだろ?」
「『すかてんS』ってなんなの?」
「『すかいてんぷるすぺしゃる』のことだよ。前に食べてみたいって言ってたろ?」
「うん。じゃあ、それ」
 彼女さんが頷かれました。……素敵な彼女さんです。
「では『すかいてんぷるすぺしゃる』をおふたつですね。しばらくお待ちください〜」
「うん、よろしく。……ところで玉野さん。今日、大空寺のやつは?」
「先輩はご休憩中です。ご用でしたらお呼びいたしましょうか?」
「いやいや! 呼ばなくていいよ。呼ばれるとやかましくてたまらないからね〜」
「わかりました♪」
 先輩と孝之さんはいっつもこんな感じです。


「はい、玉野さん。『すかてんS』ふたつあがったよー」
「わかりました〜」
 コックさんが出来上がりを教えてくれました。
 『すかいてんぷるすぺしゃる』は今、『すかいてんぷる』で一番人気のあるメニューで
す。ボリュームのあるメニューですが、値段もお手ごろなので若い方を中心に大人気です。
 普通、そんなメニューだと店の売上げにも響くらしいのですが、先輩がおっしゃるには
大丈夫だそうです。なんでも材料に秘密があるそうなのですが。
 私は『すかてんS』を両手にふたつ持って、孝之さんたちのテーブルへと向かいます。『す
かてんS』はボリュームたっぷりなためお皿も大きいですが、がんばって運びます。玉野ま
ゆ、ここで負けるわけにはまいりません!
「おまたせしました。『すかいてんぷるすぺしゃる』です」
「ありがとう〜って、玉野さんふたついっぺんに持ってきたの?」
「はい、そうですけど」
「すごいね〜。前ふたつ持とうとしたらフラフラしてたのに」
「あ、あのときのことは忘れてください〜」
『すかてんS』がメニューに出来たころ、私はお皿をふたつ持ってみたら、見事にバランス
をくずしてころんでしまったことがあります。あの時は散々でした……。
「いや、すごいよ。玉野さんも成長してるんだね〜」
「ありがとうございます♪それではごゆっくりどうぞ〜」
「あ、ちょっと待って。お持ち帰り、注文してもいいかな?」
「はい。かまいませんよ」
 メニューを孝之さんに差し出します。
「ありがと。ええと……じゃあこれ」
「はい、わかりました。それでは会計の時にお渡ししますね」
「うん。よろしくね」
 私はコックさんにオーダーを伝えました。
「すみません〜。『お持ち帰りS』お願いしまーす」


 孝之さんたちが会計のために席を立ったので、私はレジへと向かいました。
「……はい、2500円ちょうどですね。ありがとうございます。では、こちらが『お持
ち帰りS』になります」
 私は孝之さんに『お持ち帰りS』をお渡ししました。
「ありがと。じゃあ、はい」
 孝之さんは私に『お持ち帰りS』を渡しました。???
「玉野さん、今日誕生日だよね。おめでとう。それ、俺からのプレゼント。おやつにでも
食べて」
「孝之さん……ご存知だったんですか」
「うん。っていうのはちょっとウソ。実は今日思い出したんだ。それでプレゼント用意す
る時間がなくて、ごめんね。こんなもので」
 孝之さんはそうおっしゃいましたが、私は……私は……うれしいですぅ!
 孝之さんにプレゼント戴けて、今日は本当に良い日です!
「ありがとうございます。私は果報者ですぅ……」
「あはは。大げさだなあ、玉野さんは。それじゃ、俺たちは行くね。バイト、がんばって
ね」
「はいっ!!玉野まゆ、がんばりますっっ!!!」


あとがき


PCゲーム「君が望む永遠」のSSです。
ヒロインの玉野まゆの聖誕祭用です。今回もなんとか間に合いました。
またまた短めですがね(汗)。
実働数時間ですが、数時間かかってこれだけというのもなんだかなーという感じです。
それではまた次の作品で。


2003年5月11日 PS2版「君のぞ」を早くプレイしようと心に誓った日(笑)